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巻頭言》「企業と生物多様性(12) 保全を本業に埋め込む」

 先週はドイツのボンで、生物多様性条約の「革新的資金メカニズム」
に関するワークショップに参加してきました。「革新的資金メカニズ
ム」とは耳慣れない言葉かもしれませんが、要はこれまでのような政府
による資金だけではとても足りないので、もっと別の資金源を作ろう。
あるいは、市場メカニズムをうまく利用して、保全活動が進むようにし
よう。そういう方法のことで、今回はそれについていくつかの案を具体
的に検討することが目的でした。

 そうした主題の議論ですので、当り前と言えば当り前なのですが、生
物多様性についての議論なのに、生物の話はほとんど出て来ずに、もっ
ぱら経済的な話が繰り広げられました。もちろん、企業や企業活動に関
わる話題も多くありました。

 詳しい内容についてはまた別の機会に譲りますが、興味深いのは、い
ずれの案でも、「生物多様性を保全するのは良いことだから、社会的責
任として、あるいは企業市民として、企業もこの問題に取り組むべき
だ」などという精神論はまったくなく、どうやって日々の企業活動や経
済の仕組みの中に、生物多様性を保全を促進したり、あるいはその資金
源を作るための仕組みを埋め込むか、その点に議論が終始していたこと
です。

 つまり、社会貢献の話ではなく、あくまでビジネスをどう持続可能な
ものにするかという話であり、また受益者が、自分が受けている便益に
応じて負担しましょう、そういう話なのです。もちろんこれは仕組みを
作る側、どちらかというと行政側の視点ですので、一般の企業とはどう
しても発想の出発点が違うのかもしれませんが、日本の現状とはかなり
温度差があるのではないかと思います。

 ところで、ここ一年半ほどの経済状況のせいで、CSR活動が縮小してい
るという話しをよく聞きます。え、あの会社が、と思うようなところが、
「稼げない活動は予算を削れと言われてしまって」と大変寂しいことを
おっしゃったりするのを聞きます。背に腹は代えられないということな
のかもしれませんが、これは実は、CSRが本業の中にしっかりと埋め込ま
れていないからなのではないでしょうか。

 「本業を通じたCSR」という言葉がよく使われますし、私もCSRはそう
あるべきだと思っています。CSRは、儲けたお金を社会に還元しましょう、
それで社会に貢献しましょう、という発想とは別の物だからです。本業
を通じた、つまり本業の力を生かしたCSRは、その企業らしさや、その企
業の強みが生かせるという点でも、メリットが大きいと思います。

 ただそれでも、本業の力を生かしているだけですと、やはり不況下で
は活動が縮小してしまうということもあるのかもしれません。なにしろ
それはあくまで本業とは独立した「CSR」であって、本業と完全に一体化
しているわけではないからです。どうしても、優先順位は低いのです。

 そんなことを考えていたら、先日、「本業に統合されたCSR」という言
葉を見かけ、「あぁ、なるほど、こっちの方が正確だな」と思いました。
考えてみたら、英語でも "CSR embedded in the main business"とい
う表現をよく見かけます。つまり「本業に埋め込まれたCSR」です。

 これなら、本業をよくすることと、CSRを進めることは完全に方向性が
一致しますので、不況だからと言って縮小することはあり得ません。む
しろ、業績が悪ければ、余計に発奮する必要があるでしょう。そして何
より、企業が社会的問題の解決に取り組むことは、こういう景気のとき
こそ、より必要とされるのです。

 考えてみたら、生物多様性も同じなのではないでしょうか。この連載
の最初の方でも書いたように、あらゆる企業活動は、生物多様性の恩恵
に依存しています。事業を継続するために、生物多様性が必要なのです。
であれば、生物多様性の保全も、その性質上当然に、事業に「埋め込ま
れた」ものである必要があるでしょう。

 企業活動や経済の仕組みの中に、生物多様性を保全するための仕組み
が、早く完全に埋め込まれることを期待して、私も微力ながらその仕組
み作りに参加し続けたいと思います。

             サステナビリティ・プランナー 足立直樹

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