> >
NPO法人生物多様性農業支援センター
6月14日(火)東京新聞社説
世界農業遺産 日本の良さを見直そう

【社説】

世界農業遺産 日本の良さを見直そう

2011年6月14日

 石川県・能登半島と新潟県佐渡市が世界農業遺産に登録された。里山や里海が、環境保全だけでなく農業の在り方としても国際的評価を受けた形だ。日本の良さを見直し、地域の元気につなげたい。

 世界農業遺産は、正式には「世界重要農業資産システム(GIAHS)」という。国連食糧農業機関(FAO)が二〇〇二年から始めたプロジェクトで、次世代に継承すべき農法や生物多様性などを持つ地域の保存を目指している。能登半島と佐渡は国内初というだけではなく、先進国で初の登録でもあった。FAOにとっても画期的な決定だったといえよう。

 世界の飢餓対策に取り組むFAOが、食糧増産のために農業の効率性を高めるのとは全く逆に、伝統的な農法の見直しを強めていることの意義は大きい。食料自給率の低さが問題になっている日本にとっても、今回の登録は今後の農業の在り方に一石を投じたといえるのではないか。

 農業遺産は、国連教育科学文化機関(ユネスコ)が自然や文化を対象に選んでいる世界遺産と大きく違うところがある。正式名称にあるように「システム」を対象にしている点だ。人の営み、働き掛けが前提、必須になっており、単なる保存ではない。

 地元は登録に沸くが、現実を見れば課題は山積している。農業を支える担い手不足が深刻だ。例えば、能登の四市四町の農業人口は全体の5・5%で、石川県の平均1・9%を上回っているが、平均年齢も一市を除き県平均の六七・六歳を上回り、中には七十歳を超える市もある。〇七年度に県が奥能登の農家を対象に実施したアンケートでは、七割が十年以内に農業をやめたいと答えた。

 農業遺産が、自然や文化の世界遺産と違い、分かりにくいのも問題になるだろう。今回の登録で、能登では千枚田、佐渡ではトキが特に注目された。千枚田もトキもあくまで象徴であり、それを支えるシステムが大事なのだが、そうなると一言では語りにくい。一部の地域や取り組みだけが注目され、全体の足並みが崩れることのないようにしたい。

 NPO法人・生物多様性農業支援センターの原耕造理事長は「遺産登録で目指すべきは観光活性化ではなく、自分たちの価値を知り意識改革すること」と指摘する。筑豊の炭坑画が世界記憶遺産に選ばれ、再評価された例もある。地域の財産に光を当てよう。

更新日:2014年10月31日